未来からの課題  −多様性の尊重―

201433

清水 光幸

昨年2013年2月15日、ロシアのチェリアビンスク上空で隕石が爆破し破片に分裂しながら落下して、衝撃波により約1200人のけが人が出た。大気圏突入前の直径は17m、質量は10トンだったと推定されている。チェバルクリ湖からは、直径50〜90cm、重さ約600kgの塊が発見された。この程度の衝突は100年に一度程度起こるとされる。あまり知られていないが、同じ日の16時間後に、実は直径45mの小惑星2012DA14が、人工衛星よりも地表に近い高度2万7700kmを通過していた。直径10m以内の隕石は毎日落下し途中で燃え尽きているが、今回のような直径100m以内の大きさの隕石は、事前の観測が困難とされる。同じ2013年の10月8日には、ウクライナの天文学者が直径400mの小惑星2013TV135が、すでに9月16日に地球から676万kmのところを通過していたことを発表した。この大きさでも事前の発見が困難であることがわかる。当時のNASAは議会の関係で政府機関の閉鎖に伴い機能していなかったという。直径1km以上の、衝突すれば人類の生存に大きな影響を及ぼす小惑星は1000個程度とみられ、半分程度はすでに観測されているという。

近年に確認された隕石の衝突で最大のものは、1908年シベリアのツングースカ大爆発の原因となったもので、広島原爆の1000個分のエネルギーを放出し、直径50kmの範囲で森林が炎上し、1000km離れた窓ガラスが割れ、ロンドンでも新聞が読めるほど明るくなったという。地表ではイリジウムが検出され、隕石の直径は2012DA14と同程度から100mまでとみられている。100年に一度とはいえ、これが太平洋などに落下した場合の津波の大きさは計り知れず、そのせいで沿岸の原子力発電所が被害をこうむることは容易に想像され、陸上に落下すれば近辺にある原子力発電所や、放射性廃棄物貯蔵庫はもろに破壊されるだろう。

 さらに小惑星の衝突で知られるものは、すでに理科総合の教科書にも載っている約6500万年前の恐竜が絶滅した時の衝突だろう。隕石や小惑星に多く含まれるイリジウムが当時の地層から多く検出され、直径10kmほどの小惑星の衝突によって恐竜などが大量絶滅したという説が、1980年にアルヴァレズ親子により発表された。その後ユカタン半島に直径180kmのクレーターが見つかり、世界中のKT境界線でイリジウムが検出されて確認された。

しかし、大規模大量絶滅はこれまで5回起こっていることがわかっている。顕生代5億4千2百万年の間で、Big5と言われる大規模な大量絶滅があり、それ以下も合わせると計10回ほどの大量絶滅が確認されている。そもそも、原生代・古生代・中生代・新生代というのは、大量絶滅によって新たな生物種が発生したことによる区分であると言う。

 およそ1億年に1度は起こる大規模大量絶滅や、約3000万年ごとに起こるそれより小規模な大量絶滅については、1998年にランピーノによるシバ仮説が発表された。インドヒンズー教のシバ神が宇宙の破壊と再生を司るとされることになぞらえたものだ。(ちなみに、インド宇宙論では現在は7回目の宇宙であるという。)

 また2001年に地質学者ヤン・バイツァーと宇宙物理学者ニール・シャビブが発表した説では、1億4千万年ごとに太陽系が天の川銀河のスパイラルアームを通過するため、スパイラルアーム中に多く発生する超新星爆発から生じる宇宙線の影響で地球の雲が多く発生し、その結果地球の寒冷化が周期的に起こったという。銀河を1周する間に4回ほどスパイラルアームを通過しており、恐竜絶滅の時期とも重なるようだ。スパイラルアーム通過と隕石衝突の周期には関係があるのかもしれない。

シバ仮説によると、太陽系が銀河系を周回する(1周2億2500万〜2億5000万年)際に、メリーゴーラウンドの馬のように1周に付き4回ほど上下しながら周回するため銀河面を8回通過することになり、星間雲を通過するたびに小惑星の軌道が乱れ、およそ3000万年(=2億4000万年÷8?)ごとに小惑星の衝突が起こり、地球上にその時のイリジウム層が見つかっているというのだ。

この仮説が正しければ、あるいは地球史的視点からしても、地球上の大量絶滅を引き起こす小惑星の衝突は確実にやってくると考えなければならない。6500万年前の恐竜の絶滅、3370万年前の大量絶滅からすると、そろそろ周期が回ってきてもおかしくない。しかし、直径の大きな小惑星ほど観測しやすいため、現在の人類には衝突を避ける対処法を取りやすいと言われる。日本スペースガード協会のような観測網は、すでに世界中にできており、対策も研究されている。

しかし、観測の難しい直径500m以下の小惑星衝突に対する技術開発は、今から考えておかなければならない。最近では直径100m前後でも発見されているものがあり、これらの観測こそ人類共通の課題として一刻も早く取り組むべきだろう。一つの巨大小惑星ではなく隕石雨のように一時に大量に落下すると、対処法はさらに難しくなる。その時は、全世界の原子力発電所などへの衝突は避けるべくもない。恐竜絶滅時でさえ、人間の祖先である鼠のような哺乳類は生き残ることができたが、地上のすべての原発や廃棄物貯蔵庫が破壊されれば、放射能の拡散により地球上の生命体の生存はほぼ不可能になるかもしれない。

巨大小惑星であれ隕石雨であれ、人類生存の危機が迫った場合は、遺伝子保存のために地球上の生命体を多数乗せた宇宙船が作られるだろう。その際重要なのは多様性である。人種一種類では疫病発生の場合一気に絶滅する確率が高いが、できる限り多様な人種が搭乗すれば、多様な免疫力により生存率が高くなるという。領土問題や宗教問題などで争っている場合ではない。自分の生存のためにも、相手の生存が必要であり共生が求められている。

 カール・セーガンは、1980年のアルヴァレズの論文に刺激を受け1983年に「核の冬」を書いた。核戦争がもたらす気温低下や食物連鎖の破壊などにより人類が絶滅すると言う話だ。その後、核軍縮が進んだという実績がある。しかし皮肉なことにルイス・アルヴァレズはマンハッタン計画に参加し、B―29に搭乗して広島・長崎への原爆投下という人類初の核兵器使用を目撃した物理学者であった。

 ケネディとフルシチョフが、1962年10月のキューバ危機で核戦争の危機に追い込まれたとき、米国軍部はソ連のキューバ核ミサイル42基配備済みも知らずキューバ侵攻を進言し、核戦争もいとわないという姿勢であった。当時のソ連原潜は核魚雷を搭載しながら、それを知らない米軍の爆雷攻撃を受け、艦長が核魚雷発射を決定しようとした時、一兵士のヴァシリー・アルヒーポフの反対で押しとどめられたという。ソ連の一兵士の英雄的進言が、核戦争を回避したのだ。

 ケネディとフルシチョフは、結局互いにトルコとキューバの核ミサイルを撤去することで核戦争の危機を回避した。たった二人で、人類の数億人を死に追いやる決定はできなかったのだろう。その後2年でアメリカへの譲歩を非難されたフルソチョフは失脚し、軍部やCIAと対立したケネディも約1年後に暗殺されてしまった。

 ケネディは暗殺される5か月前に、アメリカン大学卒業式の「平和のための戦略」という演説の中で次のような言葉を残している。

「みなさん、両国の違いに目を向け、両国の違いを理解しましょう。同時に、両国には共通する利益があり、両国の違いを解消する可能性のある方策があることにも注目しましょう。2つの国の違いをすぐに解消することはできないかもしれません。しかし、相違があっても世界が平穏であり続けるように力を注ぐことはできます。究極のところ、われわれを結びつけるもっとも根本的な絆は、小さな地球の上でともに生きている、という事実です。われわれはみな同じ空気を吸い、子どもたちの将来を同じように大切に思います。われわれはみな命に限りのある人間です。」

 政治だけでなく、経済においても人類の多様性を認める戦略が必要だ。1%の人間が99%の富を占有するというようなことでは、活力ある社会を維持できない。宇宙船の中だけでなく日常生活においても、多様性は生命力を強化しあらゆる活力をもたらすものだ。常に相手の身になって考える能力を大切にし、互いの違いを認めてその存在を尊重し、互いに存在してこそ成長できることを理解した上で、自分の意見を主張しなければならない。多様性の尊重とは、遠慮することではない。大いに議論し啓発しあってこそ違いを尊重することになる。自己中にならず寛容な心で、議論の成果を互いに喜べる人間になり、「小さな地球の上でともに生きている」仲間と有意義な人生を大いに楽しんでください。

 卒業おめでとう!